博多名物の鶏鍋。澄んだ水で仕立てたスープに、卓上で野菜をくぐらせ、橙のぽん酢につけて味わいます。
外が冷え込むなか、鍋が食卓の真ん中に運ばれてくるころには、もう湯気が立ちのぼっている。まずは、ほとんど塩をしていない澄んだスープを小さな器でひと口。鶏の旨みはまっすぐで、余計な飾りは何ひとつない。
そこから箸が止まらなくなる。ほろりとほどける鶏肉、まだ歯ざわりの残るキャベツ、コラーゲンをたっぷり吸った豆腐、そしてひと口ごとに脂をすっと切ってくれる橙ぽん酢。
はじまりは、水と鶏だけ。日本の鍋料理のなかでもとりわけ端正で、しかも一度食べると忘れがたい味わいだ。

水炊きとは?
水炊きは、その名のとおり「水で炊く」鍋。だしは澄んだ水だけで仕立て、だしやスープキューブのようなもの、最初の味付けは一切加えない。
旨みのすべては骨付き鶏から引き出される。皮、コラーゲン、骨髄。博多では、ひと口大に切った骨なしもも肉、つくね、丸キャベツ、ねぎ、きのこ、豆腐を添え、味は食卓で整える。最初の一杯は塩をひとつまみ、そのあとはぽん酢につけていただく。
博多では二つのスープが並び立つ。澄んだ琥珀色の 琥珀 は90〜95 °Cほどを保ちながら、こまめにアクを引いて仕上げる。白く濃厚な 白湯 は、脂とコラーゲンを乳化させるため、5〜10時間しっかり沸かして作る。
どちらもれっきとした本流だ。一方、関西の鍋は昆布で風味を含ませ、白菜は水分が多すぎるため、博多式の水炊きにはあまり使われない。

1905年、香港と長崎を経て博多に生まれた味
長崎出身の林田平三郎は、15歳だった1897年に香港へ渡る。そこで出会ったのが、英国風の澄んだコンソメと、骨付き鶏を長時間煮込む中国のスープだった。帰国後、1905年に博多・須崎で水月という料理店を開く。この料理は当初「博多煮」と呼ばれ、その後、水炊きとなった。
もともとの水炊きは、澄んだスープ仕立てだった。穏やかな火加減、丁寧なアク取り、琥珀色の色合い、そして凝縮したうま味。20世紀半ばには、1910年創業の新三浦のような店が、より白濁し、口当たりのまろやかな白湯仕立てを広めた。現在の福岡では、この二つのスタイルが並んで供されている。
ぽん酢にも、この土地らしさが表れている。店によっては、12月と1月に収穫される糸島の橙を、果皮の苦い油が入らないよう手で搾り、最大1年熟成させてから醤油と合わせる。古くから大陸との往来に開かれていた福岡は、この鶏鍋を郷土を代表する料理のひとつに育ててきた。
水炊きの主な材料

だしの要は骨付き鶏。もも肉と手羽から、旨み、脂、そしてスープをとろりとさせるコラーゲンが溶け出す。食事の途中で加える骨なしもも肉はやわらかく、鶏の風味をさらに深める。つくねは鶏の旨みを鍋に加えながら、スープの味もたっぷり吸い込む。水は冷たく濾過したものを使い、味を濁らせない。
丸キャベツ、つまりkyabetsuは、ほどよい歯ざわりとやさしい甘みを保ち、だしを薄めない。その点、白菜は水分が出すぎる。ねぎは青ねぎでも代用でき、主張しすぎず香りを添えてくれる。
しいたけ、えのき、しめじは、旨みと、なめらかなものから歯ごたえのあるものまでさまざまな食感を添える。豆腐はmomen、つまり木綿豆腐がおすすめ。しっかりしたものでもやややわらかめでも、コラーゲンを含んだだしを吸って、全体をやさしくまとめてくれる。
味付けはごくシンプル。最初の一杯にひとつまみの海塩、脂をすっと切って鶏の旨みを引き立てる橙ぽん酢、そして柑橘の辛みを添える少量の柚子胡椒。
締めには、残っただしで雑炊を作る。炊いたご飯を加え、火を止めてから溶き卵を回し入れる。うどんやちゃんぽん麺を合わせてもよい。でんぷんが汁を吸い、最後のひと口まで鶏の旨みを余さず味わえる。

本場らしさを見分けるポイントと注意点
見極めるポイントは三つ。水だけで仕立てただし、こまめなアク取り、そして白菜ではなく丸キャベツを使うこと。
澄んだタイプは90〜95 °Cを保ち、白濁タイプは長時間しっかり沸かす必要がある。灰色がかったり濁ったりしたスープはアク取り不足のサイン。味がぼやけているなら、鶏が脂の少ないものか、煮込みが足りない可能性が高い。
鶏料理なので、中心温度は74 °Cを目安に。温度計はもっとも厚い部分に刺して確認しよう。

材料
鶏だし・鶏肉
- 500 g 骨付き鶏もも肉 ぶつ切りにする
- 6 鶏手羽先
- 2 L 水
具材
- 1 長ねぎ 斜め薄切りにする
- 1/2 キャベツ 大きめに切る
- 1 束 春菊 あれば
- 4 しいたけ
- 1 パック えのきだけ
- 1 丁 豆腐
- 葛切り または春雨、適量
つけだれ・薬味
- ポン酢 つけだれ用
- 塩 好みで
- 薬味 お好みで:柚子胡椒、小口切りの青ねぎ
締め(雑炊)
- ご飯 炊いて冷ましておく
- 1 卵 溶きほぐす
- 青ねぎ 小口切り、仕上げ用
- ポン酢 少量、仕上げ用
指示
スープを取る
- 鶏もも肉と手羽先を沸騰した湯で約30秒下ゆでし、アクと臭みを取り除く。500 g 骨付き鶏もも肉, 6 鶏手羽先, 2 L 水

- すぐに冷水に取り、血や汚れを洗い流す。
- 鍋に水、鶏もも肉、手羽先を入れ、強火にかける。

- 沸騰したら弱火にして静かに煮立たせ、アクを取りながら、スープが白濁するまで2〜3時間煮込む。

- 水分が減ったら、そのつど少量の水を足して水位を保つ。
具材を煮る
- 鶏肉とスープを卓上鍋に移す(またはそのまま同じ鍋を使う)。温かい状態を保つ。
- 火の通りにくいものから順に野菜を加える(キャベツ、長ねぎ、しいたけ、えのきだけ、豆腐、最後に春菊)。やわらかくなるまで煮る。1/2 キャベツ, 1 長ねぎ, 4 しいたけ, 1 パック えのきだけ, 1 丁 豆腐, 1 束 春菊

- 好みで葛切り、または春雨を加える。葛切り
- 鶏肉はそのままでも、ポン酢につけて柚子胡椒や好みの薬味を添えてもおいしくいただける。ポン酢, 薬味
締めの雑炊
- 残ったスープに冷ましたご飯を加え、温める。ご飯
- 塩で味を調え、溶き卵と青ねぎを加える。仕上げにポン酢を少量回しかける。塩, 1 卵, 青ねぎ, ポン酢
Notes
- 一度下ゆでして洗ってから、骨付き鶏をじっくり2〜3時間煮込むことで、博多風水炊きならではの白濁したコク深いスープに仕上がります。
- おすすめの食べ方は、まず少量の塩とねぎで鶏スープを味わい、続いて鶏肉と野菜をポン酢や柚子胡椒で楽しみ、最後に雑炊で締めることです。