「中国ソーセージ」という言葉は、中国各地それぞれで作られる多種多様な saucisses を総称したものです。なかでも最も知られているのが広東風ソーセージで、広東語ではラップチョン/ラッポション(臘腸)と呼ばれます。字義どおりには「冬に腸詰めした肉」または「蝋で封じた腸」という意味です。
現在では「ラップチョン」という呼び名は、中国各地のソーセージはもとより、周辺アジアの似たソーセージまで指すようになっています。本稿では、その本家とも言える広東式ラップチョンに的を絞ってご紹介します。
そもそもラップチョンとは?
ラップチョン(簡体字: 臘肠/la chang、ベトナム語: ラップシュオン)は、豚の赤身と脂を腸に詰めて乾燥させ、 vin shaoxing、砂糖、 sauce soja などで甘塩っぱく風味付けしたソーセージです。
秋の収穫が終わるころ、刻んだ豚肉と脂を調味して腸に詰め、冬の冷たい風にさらして乾燥させるのが伝統的な作り方。こうして、ほどよい硬さとなめらかな弾力を併せ持ち、赤身と脂身のコントラストが美しいソーセージが完成します。
いまやラップチョンはアジアにとどまらず欧米でも人気。豚肉の代わりに鶏肉や牛肉を使ったもの、各種レバーをブレンドしたタイプなど、バリエーションも豊富です。

ラップチョンの起源
中国最古の農業百科『斉民要術』を544年に著した賈思勰の記述によれば、ラップチョンは魏晋南北朝時代(300〜500年頃)にすでに作られていた可能性があります。
当時の人々は春節に備えて肉を長期保存するため、腸詰めの技術を生み出しました。その製法は時代を超えて受け継がれ、現代にも息づいています。
1894年、広東粥店の主人が余った豚肉やレバーを腸に詰めたのが、現在の広東式ラップチョンの原型とされています。
ラップチョンはどんな味?
形こそイタリアのサラミに似ていますが、使う調味料がまったく異なるため、味わいはラップチョンならではです。
甘さと塩気が同居し、そこにバラのシロップと高粱で仕込む伝統酒・梅桂露酒(Mei Gui Lu Jiu)の華やかな香りが重なります。この特製蒸留酒こそが、ラップチョンを唯一無二の存在にしているのです。
ラップチョンはどう料理する?
ラップチョンは cuisine chinoise はもちろん、 cuisines vietnamienne や thaïlandaise でも欠かせない食材。蒸す、炒める、そのままかじる、ご飯と一緒に炊き込むなど、楽しみ方は無限大です。とくにご飯に一緒に炊き込むと、ソーセージの脂が米粒に染み込み、コクとほのかな甘みを添えてくれます。
チャーハン、麺料理、スープ、炒め物などに加えるのもおすすめです。レシピをお探しの方は、私の riz aux saucisses chinoises à la vapeur や riz sauté à la saucisse chinoise をぜひご覧ください。もちろん riz cantonais にもラップチョンは欠かせません。

ラップチョンは gâteaux de lune やピアケーキといった菓子の餡にも使われます。生肉製品ですので、調理の際は必ず十分に火を通しましょう。
中国では一年を通じて食べられるラップチョンですが、2月の Nouvel An chinois (春節)にはとりわけ需要が高まります。多くの家庭で祝い膳に欠かせないごちそうです。
ラップチョンはどこで買える?
欧米でもラップチョンはオンラインショップやアジア系スーパーで手軽に入手可能。ブランドやフレーバーも豊富で、梅桂露味や五香粉味なら You Huy、Hoa Nam、Viet Hung などが定番です。
本場の味を追求するなら、梅桂露(ベトナム語名 Mai Que Lo)入りタイプがおすすめ。もちろん、自宅で手作りすることもできます。

ラップチョンの保存方法
自家製・市販品を問わず、ラップチョンは冷蔵または冷凍保存が基本。冷蔵で約3か月、冷凍なら最長1年ほど風味を保てますが、パッケージの賞味期限内に食べ切るのがベストです。
ラップチョンの代用品はある?
唯一無二の風味ゆえ完全な代用は難しいものの、どうしても手に入らない場合は、フエットやベルギーの“パイプ・アルデネーズ”など半乾燥タイプのソーセージを薄切りにし、五香粉・砂糖・紹興酒を合わせたマリネ液に漬け込むと近い味わいが得られます。